「また資金繰りのことか…」。
そう思われた経理担当の方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、キャッシュフローの改善は、日々の支払い業務の安心感に留まらず、会社の成長戦略を描く上でも欠かせない土台となります。
私、石黒誠二は、自動車部品メーカーで営業技術職として15年間、顧客との価格交渉や納期管理に奔走する中で、「お金の流れがいかに現場を左右するか」を肌で感じてきました。
あの時、もっと資金の動きを理解していれば、より良い提案ができたのではないか。
そんな思いが、今の私の原点です。
本日は、かつての私と同じように現場の最前線で奮闘されている経理担当者の皆様へ、キャッシュフローを見直すための具体的な3つの着眼点をお伝えします。
帳簿上の数字だけでなく、その裏にある「お金の動きのリアル」に目を向けていきましょう。
現場視点で見直すキャッシュフローの基本
キャッシュフローとは、平たく言えば「現金の流れ」そのものです。
利益が出ていても、手元にお金がなければ会社は立ち行かなくなる。
これは、多くの中小企業経営者や経理担当者の方が実感されていることでしょう。
「資金が動く瞬間」を把握する重要性
まず押さえるべきは、「いつ、どれくらいの現金が入ってきて、いつ、どれくらい出ていくのか」という現金の動きの実態です。
これを把握するために役立つのがキャッシュフロー計算書や資金繰り表です。
これらを作成・分析することで、資金が不足しそうなタイミングを事前に察知し、対策を講じることが可能になります。
「なんとなく足りている」「今月もなんとかなった」という状況から脱却し、計画的な資金管理への第一歩を踏み出しましょう。
売上と入金のタイムラグに着目せよ
特に注意したいのが、売上が計上されるタイミングと、実際に現金が入金されるタイミングのズレ、いわゆる「タイムラグ」です。
例えば、製品を納品して売上が確定しても、その代金が翌月末や翌々月末に入金されるケースは珍しくありません。
この期間が長ければ長いほど、手元の資金は不足しがちになります。
「売上は順調なのに、なぜか資金繰りが苦しい…」という場合、このタイムラグが原因の一つとなっている可能性があります。
自社の売掛金の回収サイト(売上が発生してから入金されるまでの期間)を正確に把握し、長期化していないか確認することが重要です。
経費の「支払タイミング」に潜む落とし穴
収入だけでなく、支出のタイミング管理もキャッシュフロー改善の鍵を握ります。
仕入れ代金などの買掛金の支払サイトが短い場合や、大きな設備投資などで一度に多額の現金が流出する場合、資金繰りは一気に厳しくなります。
また、家賃やリース料、人件費といった固定費は、売上の増減に関わらず毎月決まった額が出ていきます。
これらの支払いが特定の時期に集中していないか、見直してみる必要があるでしょう。
石黒の視点:
営業技術時代、部品の納期遅延は許されませんでしたが、一方で顧客からの入金遅延には頭を悩ませることもありました。
「モノは動いているのに、カネが動かない」。このもどかしさが、キャッシュフローの重要性を私に教えてくれました。
経理担当者が押さえるべき3つの視点
では、具体的にどのような点に注目してキャッシュフローを見直していけば良いのでしょうか。
ここでは、経理担当者の皆様にぜひ押さえていただきたい3つの視点をご紹介します。
1. 売掛金の回収サイクルを最適化する
売掛金は、将来現金化される権利ではありますが、まだ手元にある現金ではありません。
この回収サイクルをいかに短縮し、確実に回収するかが最初のポイントです。
地元商工会でも注目:回収条件の見直し事例
多くの地元商工会や金融機関でも、売掛金の管理に関するセミナーや相談会が開催されています。
そこでよく聞かれるのが、以下のような回収条件の見直し事例です。
- 取引開始時の与信管理の徹底: 新規取引先の信用情報を事前にしっかりと調査する。
- 契約書への支払条件の明記: 支払期日、遅延した場合の損害金などを明確に定める。
- 請求書発行プロセスの迅速化: 売上計上後、速やかに請求書を発行する。
- 支払期日前のリマインダー: 入金遅延を防ぐため、期日前に丁寧に確認連絡を入れる。
- 交渉による条件改善: 大口取引先や長期取引先に対し、支払サイトの短縮や一部前払いを交渉してみる。
これらは基本的なことですが、徹底することで回収遅延のリスクを確実に減らすことができます。
ファクタリングの活用は慎重に、それでも有効なケース
売掛金を早期に現金化する方法として、「ファクタリング」があります。
これは、売掛債権をファクタリング会社に買い取ってもらうことで、手数料は引かれますが、入金期日前に現金を得られる仕組みです。
確かに、ファクタリングには手数料が発生するため、利用には慎重な判断が必要です。
しかし、以下のようなケースでは有効な選択肢となり得ます。
ファクタリングが有効なケース | 理由・背景 |
---|---|
急な大口受注で仕入れ資金が不足している場合 | 金融機関の融資審査を待っていては間に合わない、機会損失を防ぎたい |
金融機関からの追加融資が難しい場合 | 決算状況や担保余力などから、銀行融資のハードルが高い |
売掛先の信用力にやや不安がある場合(ノンリコース契約) | ファクタリング会社が貸倒リスクを負うため、未回収リスクを回避できる |
資金調達の手段を多様化したい場合 | 銀行借入以外の選択肢を持つことで、経営の柔軟性を高めたい |
ファクタリングは、いわば「時間をお金で買う」手段の一つです。
利用する際は、複数のファクタリング会社から見積もりを取り、手数料や契約内容を十分に比較検討することが極めて重要です。
悪質な業者も存在するため、信頼できる会社を選ぶようにしましょう。
2. 固定費と変動費のバランスを定点観測する
次に着目すべきは、費用構造です。
費用は大きく「固定費」と「変動費」に分けられますが、このバランスを定期的に見直すことが大切です。
小さな製造業こそ見逃せない「固定費の重み」
特に私たちのような中小の製造業では、工場設備や機械の減価償却費、正社員の人件費など、固定費の割合が高くなる傾向があります。
固定費は、売上が増えようが減ろうが、一定額発生し続ける費用です。
そのため、売上が減少した局面では、この固定費が経営を重く圧迫します。
自社の損益分岐点(利益がゼロになる売上高)を常に意識し、固定費が過大になっていないかチェックする習慣をつけましょう。
DIY精神で始めるコスト構造の棚卸し
コスト構造の見直しは、まさに「DIY精神」で取り組むべき課題です。
まずは、自社の経費科目を一つひとつリストアップし、どれが固定費でどれが変動費なのかを丁寧に仕分けしてみましょう。
その上で、各費用項目について、
「本当にこの金額が必要か?」
「もっと安く抑える方法はないか?」
「この業務は内製化できないか、あるいはもっと効率的に外注できないか?」
といった視点で見直しを進めます。
例えば、以下のような取り組みが考えられます。
- 電気料金プランの見直し、省エネ設備の導入検討
- 消耗品の購入先の見直し、共同購入の検討
- 遊休資産(使っていない機械や土地など)の売却や賃貸
- 業務プロセスの見直しによる残業時間の削減
小さな改善の積み重ねが、大きなキャッシュフロー改善に繋がります。
3. 補助金・制度融資を資金繰りの選択肢に加える
日々の資金繰り管理と並行して、いざという時のために、あるいは新たな事業展開のために活用できる外部資金調達の選択肢を広げておくことも重要です。
「知らないと損」な地元支援制度
国や地方自治体、政府系金融機関は、中小企業向けに様々な補助金や低利の融資制度を用意しています。
これらは、返済不要の補助金であったり、通常の銀行融資よりも有利な条件で借り入れができたりするものが多く、「知らないと損」と言っても過言ではありません。
主な支援制度の例:
- ものづくり補助金: 新製品・サービス開発や生産プロセス改善のための設備投資などを支援。
- 小規模事業者持続化補助金: 販路開拓や生産性向上の取り組みを支援。
- 日本政策金融公庫の融資制度: 創業支援、運転資金、設備資金など、多様なニーズに対応。
- 各都道府県・市町村の制度融資: 地元企業向けに独自の融資制度や利子補給制度などを設けている場合があります。例えば、愛知県や静岡県にもそれぞれ特色ある中小企業向け融資制度が存在します。
これらの情報は、商工会議所や各自治体の産業振興課、金融機関の窓口などで得られます。
積極的に情報収集し、自社に合った制度がないか探してみましょう。
銀行だけに頼らない柔軟な資金調達法
資金調達というと、まず銀行からの借入を思い浮かべる方が多いかもしれません。
しかし、銀行融資だけに頼るのではなく、より柔軟な資金調達法も視野に入れることが、現代の経営には求められます。
前述の補助金や制度融資に加え、
- クラウドファンディング: インターネットを通じて不特定多数の人から資金を集める方法。
- ビジネスローン: ノンバンクなどが提供する、比較的審査がスピーディーなローン。
- エンジェル投資家からの出資: 創業期の企業などに対して個人投資家が出資するケース。
など、様々な選択肢があります。
それぞれのメリット・デメリットを理解し、自社の状況や目的に合わせて最適な方法を選ぶことが大切です。
現場実例:キャッシュフロー改善に成功した製造業
ここでは、実際にキャッシュフロー改善に取り組んだ製造業の事例をいくつかご紹介します。
具体的な企業名はお伝えできませんが、皆様の会社でも応用できるヒントがあるはずです。
浜松の金属加工業が実践した「回収条件」改善術
静岡県浜松市のある金属加工業では、長年の取引がある一部の大口顧客に対して、手形サイトの短縮と、一部取引における前払いの導入を粘り強く交渉しました。
当初は難色を示されたものの、これまでの取引実績と品質への信頼を背景に、少しずつ条件改善を勝ち取ったそうです。
また、新規取引先の与信管理を徹底し、回収遅延が発生しそうな場合は早期にアラートを出す仕組みを構築。
地道な取り組みですが、これにより売掛金の回収遅延が大幅に減少し、資金繰りに余裕が生まれたといいます。
名古屋のベンチャーが活用した制度融資の実態
愛知県名古屋市で創業したあるIT系製造ベンチャーは、創業初期の運転資金確保に苦労していました。
そこで目を付けたのが、日本政策金融公庫の「新創業融資制度」と、愛知県の信用保証協会保証付きの制度融資でした。
綿密な事業計画書を作成し、専門家のアドバイスも受けながら申請。
無事、融資実行に至り、その資金を元手に開発体制を強化し、事業を軌道に乗せることに成功しました。
担当者は、「あの時の制度融資がなければ、今の会社はなかったかもしれない」と語っています。
誤解を解いた結果、ファクタリングを命綱にしたケース
ある部品メーカーでは、急な大口受注が舞い込みましたが、材料の仕入れ資金が不足。
銀行融資の審査には時間がかかり、このままでは絶好のビジネスチャンスを逃してしまう状況でした。
当初、経営者はファクタリングに対して「手数料が高い」「取引先に知られたくない」といったネガティブなイメージを持っていました。
しかし、複数のファクタリング会社に相談し、2社間ファクタリング(取引先に通知せずに売掛金を現金化する方法)の仕組みや手数料について詳しく説明を受ける中で、誤解が解けていきました。
結果的に、迅速な資金調達が可能なファクタリングを利用することで、無事に材料を仕入れ、受注に対応。
「あの時、ファクタリングという選択肢があったからこそ、会社は救われた」と、今ではその有効性を実感しているそうです。
まさに、状況によっては「命綱」となり得るのです。
まとめ
キャッシュフローの改善は、一朝一夕に達成できるものではありません。
しかし、日々の業務の中で「お金が動く現場」に意識を向け、小さな改善を積み重ねていくことが何よりも大切です。
帳簿上の数字を追いかけるだけでなく、なぜその数字になっているのか、その背景にある「現場の動き」に目を向けてください。
売掛金の回収が遅れているなら、なぜ遅れているのか。
固定費が高いなら、何にどれくらいかかっているのか。
その「なぜ」を突き詰めることが、改善の第一歩です。
経理担当者の皆様は、会社のお金の流れを最もよく把握できる立場にいます。
その専門的な視点から、経営者に対して積極的にキャッシュフロー改善策を提案していくことが、会社全体の成長を支えることに繋がります。
本記事でお伝えした3つの視点や現場事例が、皆様にとって「使える実感」のある知識となり、明日からの資金繰り改善の一助となれば幸いです。
私も、引き続き現場目線での情報発信を続けてまいります。